アクナーテン アガサ・クリスティ Akhnaton 中村妙子 訳

紀元前1300年代中期エジプトを舞台とした三幕物の戯曲です。アテン神対アメン神。西洋の宗教改革に先立つこと数千年、古代エジプトで哲人政治を実行した場合国家はどうなってしまうのか。遷都して15年で消えたアマルナ。毒殺された王。アメンホテプ4世(アクナーテン)、その妻ネフェルティティ、呪いで有名なツタンカーメン王など古代エジプト著名人が出ています。セリフが多いので読みやすい戯曲です。1973年。推理物ではなく歴史物です。

「アクナーテン」のあらすじ

第一幕 舞台 第三場を除き、アメン市(テーベ)あたりのエジプト王宮

第一場

王宮前庭で王子アクナーテン(アメンホテプ4世)、若き軍属ホルエムヘブと知り合う。アメンホテプ3世死去。

第二場

三年後 エジプト王国の摂生でもある母親ティイ、理想主義芸術家肌の息子の行く末を案じる。アクナーテン、善良な妻ネフェルティティに理想を語る。その姉ネゼムート、野心を描く。

第三場

一か月後 アメン市より300マイル下流のちのアケトアトン(アマルナ)船上にてアクナーテン、理想を語る。

第二幕 舞台 アテン市(テーベ)、アケトアトン(アマルナ)の王宮

第一場

八年後 アメン市ナイル川土手 お洗濯最中のご婦人方、王の噂をヒソヒソはなす。権力失墜気味の反対勢力アメン神大神官、スパイの息子と打ち合わせをする。

第二場 

六か月後 アケトアトン王宮にて 王、芸術にいそしみ理想を語る。ツタンカーメン登場。ネゼムート、ホルエムヘブに何度目かのアタックを行う。母親ティイ、唯一有能なホルエムヘブと反対勢力とエジプトの現状を分析し、息子を憂う。

第三場 

一年後 アケトアトン王宮にて ヌビア人と偽り、反対勢力アメンの大神官王宮に出現、ホルエムヘブに説得を試みる。アメン市でアテンの神殿が壊されたと知った王、皆が止めるのも聞かず、逆上してアメン神崇拝一切禁止の御触れを出す。

第三幕 舞台 アケトアテン(アマルナ)王宮、アメン市(テーベ)

第一場

三年後 アケトアトン王宮にて 王、芸術の才能が枯渇したかと悩む。ホルエムヘブ、近隣諸国からの侵略への対策を王に進言する。野心家ネゼムート、ホルエムヘブをそそのかす。

王、唐突にすべての神々の崇拝を禁止するのを思いつき御触れを出す。ネフェルティティ、愛想をつかしそうになる。ホルエムヘブ、王は狂っていると確信する。

第二場 

六か月後 旧アメン市市街 行き交う市民のヒソヒソ話に耳を傾けるアメン神大神官とホルエムヘブ。

第三場

同じ日 アメン神大神官の一室。 大神官、ツタンカーメン、ネゼムート、ホルエムヘブが集い王への反逆を画策する。

第四場 

一か月後 アケトアテン王宮にて 理想が実現せず憔悴した王のもとにホルエムヘブ訪れ、決別を宣言する。ネゼムート、薬湯だと偽り毒薬を王に飲ませるようにネフェルティティに勧める。

エピローグ

アメン神を信奉するホルエムヘブ大王、現実的な勅令を出す。全エジプトよりアクナーテンの痕跡が消し去られる。

「アクナーテン」の時代背景

紀元前1375年から紀元前1358年あたりのようです。紀元前14世紀ですね。

このアクナーテンは多神教から一神教へと宗教改革を行い、古都テーベからテル・エル・アマルナに遷都したエジプト第18代王朝の王アメンホテプ4世を描いています。

テーベは現ルクソールになります。世界遺産の数々があります。

いわゆるアマルナ芸術が栄えた時代です。エジプトでのハイパーリアルアート文化です。

またアマルナ文書と言われる粘土板が有名です。この粘土板の文字はアッカド語で書かれています。

この文字は当時の公用語、楔形文字です。映画「スコーピオンキング」の主人公マサイアスもアッカド人でした。古い種族ですね。映画はこの時代より更に1500年昔の話になりますが。

これらの発見は劇中、王の凄まじいまでのアートへの執着、近隣首長からの救援要請の無視として描かれています。

ヨーロッパで青銅器時代、墳墓時代。古代ローマが紀元前750年代から、ローマより古いカルタゴが紀元前814年くらいからです。この時代は超古代、キンメリアの蛮族コナンがいても不思議ではないかもです。

中国でまだ殷王朝です。

日本は文字通りに中原に鹿を追ってる縄文後期、土器を作っていた頃ですか。

インドでヴェーダ時代くらい。バラモン教の前ですね。

「アクナーテン」のまとめ

「まっすぐになるか。まっすぐにされるか」 マルクス・アウレリウス「自省録」神谷美恵子

上皇后美智子様のお友達でもあった神谷美恵子先生の言によると、史上初めて哲人政治が実現したと言われるのがローマ五賢帝最後の皇帝マルクス・アウレリウス。

に先駆けること1500年くらい。鼓腹撃壌の堯舜時代から遅れること数千年、てかこれ伝説ですか。

アクナーテン、アメンホテプ4世。

そして彼の地平線の都、アケトアテン(テル・エル・アマルナ)。ロマンチックな名称です。

とにかく野蛮な時代に早すぎた王、アメンホテプ4世。

もはや、正義がなんなのかわかりません。

ただアメンホテプ4世にはマルクス・アウレリウスの「自省録」にあたるものがありません。当たり前ですが。

芸術家気質でもある王には実務家としての能力が足りなかったようです。まるでどこぞの企業の二代目社長のようです。こんな時は有能な専務に任せる器を持つべきでした。当時の人々からしたらエキセントリック過ぎる王でした。

師匠がいなかったのが痛恨の極みですね。

多神教の国に一神教への宗教改革をあまりに早く進め過ぎました。ま、これも後では何とでも言えますな、いわゆる下衆の後思案というやつですな。

アクナーテンは「肝心なのは一つの国ではない。世界なのだ!私はエジプト一国を愛するだけではない。全世界を愛しているのだ!」と断言されております。

非暴力を貫き、現代ではあんまりにも当たり前のことを言っていて、むしろキチガイじみています。盗みを働いたら腕を切り落として鼻を削ぐ時代ですからね。

今も変わりないか。

真我に目覚めていた王とも言えます。

この「アクナーテン」は古代エジプト墓場マニア歴女のレニセンブが活躍する、傑作ハーレクイン推理小説「死が最後にやってくる」(1945年)と並ぶ古代エジプトロマンです。

当時を立体的に理解できて受験にも役立つかも知れませんが全然役に立たないかも知れません。ま、どっちでも歴史的には変わりはないですけど。

でも、人生への示唆に富んだ優れた歴史劇であるのは保証します。

また、巻末の吉村作治先生の解説も面白いです。

あと、今回で戯曲はご紹介終わったのではないかと思います。ポワロの登場しない「ホロー荘の殺人」の戯曲版があるらしいのですが、まだ手に取ったことがございません。

いつかご紹介できる機会があればと思います。

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