魔術の殺人 THEY DO IT WITH MIRRORS アガサ・クリスティ 田村隆一 訳

1952年作品。ゴシック調の巨大な屋敷で展開する物語です。圧倒される舞台設定の中で奇妙な人々がそれぞれの思惑と理想の実現のため不穏な空気を気づかないふりをしつつ生活しています。旧友の頼みを引き受け、彼女の妹でもありマープル自身の旧友のためストニイゲイトに赴きます。

「魔術の殺人」のあらすじ

ミス・マープルはイタリアの女学生時代にともに寄宿舎で過ごしたアメリカ人姉妹の姉ルース・ヴァン・ライドック夫人と久しぶりに会います。

彼女はアメリカに住んでいるのですがなぜかミス・マープルとは様々な土地で会う機会がありました。彼女は妹のキャリィ・ルイズの周辺に不穏な空気を感じていました。

ライドック夫人は妹の様子を見てその怪しいと感じた雰囲気の解明をミス・マープルに半ば強引にお願いします。

ミス・マープルは妹のキャリィ・ルイズとは同じイギリスに住んでいるのに二十年以上会っていませんでした。

しかし、ライドック夫人の頼みを快諾、ミス・マープルは富豪で慈善家であり娘時代からの友人でもあるキャリィ・ルイズ・セロコールドのためストニイゲイトの大邸宅へ一人訪れます。

ミス・マープルは旧友にかなり強引で失礼ともいえる頼み方をされても顔色一つ変えず快諾ともいえる約束をし実行します。

男にとってもっとも重要な条件は約束を守ることであると言われますが、ミス・マープル達はこの点では完全に男以上に男らしいヴィクトリア朝の女子です。

非常にカッコイイムカシの女性達です。

「魔術の殺人」の時代設定

時代の変遷の時期です。指導者が移り変わり、工業重視による公害など戦後のイギリスは変わっていく最中です。

スモックがとくにこの頃イギリスでは問題になりました。

「葬儀を終えて」(53年)をご覧ください。

女学生の友情の物語

この作品は一種奇怪な舞台設計をされたミステリです。

犯罪を犯した青少年の更生という理想のために、なんの瑕疵(かし)もない善良な人々はある意味、不条理ともいえる状況に耐え忍ばなければならない。

そういう舞台設計です。

大邸宅であるにもかかわらず、手入れもされない庭や道路。

城のような大邸宅で新しいのは鉛管だけであるという有様です。

また三度の結婚や養子により家族構成も複雑で異様ともいえます。

ただ、理想しか見ていないためあるじのため被害を被っているかのようなひとびとが登場します。

ま、ヒドイっす。

しかし、ヴィクトリア朝の真の啓蒙をまとったミス・マープルは、それでもかつての女学生時代、ともに寄宿舎で過ごした二人、ルースとキャリィ、その姉妹をまっすぐ信じて行動します。

また、旧友であるふたりのアメリカ人姉妹もミス・マープルに全幅の信頼を置いています。

ここの描写は清々しさを感じるばかりです。

人生で様々な出来事があって年を経たとしても本質は変わりがありません。

この「魔術の殺人」はともに人生のある一瞬、同じカマでご飯を食べた少女達の友情の物語でもあります。

少女たち(含む、かつての)を侮るなかれ。

ジェーン(ミス・マープル)が困窮して困っているので、彼女を静養させてあげて、という理由で、妹キャリィのもとにいかせられるのにかかわらず、ミス・マープルのい心は不動です。

反発よりむしろ、いいアイディアだわと姉のライドック夫人の要請を快諾するのです。

そして、ライドック夫人の感じた不穏な雰囲気を疑わず、彼女の妹でもあり旧友でもあるキャリィ・ルイズのもと、困窮した年寄りというカヴァーそのままボロを着てためらわず潜入するのです。

いやはや、スゴイ友情と信頼です。

オトコよりオトコらしい、ヴィクトリア朝のおねーさんたちです。

中盤事件が発生してもミス・マープルはキャリィ・ルイズから眼を離さず、また彼女の言葉を信じてそのとおりに推理を進めていきます。

ビクともしません。

何十年経っても繰り返しますが本質は変わらず、固い友情は揺るぐことはありません。

「魔術の殺人」はヴィクトリア朝の少女たちのハードボイルド小説です。

「魔術の殺人」のまとめ

この「魔術の殺人」に登場する友人達にかぎらずミス・マープルの知り合いに変人扱いされるヒトはいてもボンクラはひとりもいません。

全員が見事なまでにそれぞれの人格を理解して固い友情で結ばれています。どんなに距離と時間が離れていてもそれは変わることがありません。

ヴィクトリア朝の恐るべき少女達です。

ラストでジーナというキャリィ・ルイズの養女の娘にあたる女性にミス・マープルはおば様達が若かった頃を考えると、みな同じように思えると言われます。

これは尊敬と畏怖を込めたものでしょう。

それはスタイルの問題です。

古き良き時代の刻印をもつ少女達はまっとうなオトナ女子に成長したのでしょう。

よいムスメ時代を過ごせたのはそれだけで価値があります。

うらやましいかぎりです。

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