1928年出版。クリスティが38歳、自身が評価しなかったミステリとされています。カナリア諸島で書き上げられました。この年アガサ・クリスティは失踪事件の渦中の人となりました。セント・メアリ・ミードが出てくるいろんな意味で興味深いミステリです。ポワロは相変わらずです。
「青列車の秘密」のあらすじ
アメリカ人大富豪の令嬢がリビエラへ向かうブルートレインの車内で殺されます。
さらに彼女のカテリーナ女帝が身につけていたルビーが奪われます。
しかし偶然列車には引退した名探偵エルキュール・ポワロが乗り合わせていました。
幾人もの運命が交錯する車内から舞台はフランスの避暑地リビエラへ。犯人とルビーの行方は。
舞台がセント・メアリ・ミード、ロンドンのイギリスからフランスのリビエラ、ニースへと展開します。
アガサ・クリスティが失敗作だと認めても際立ったキャラクターが登場するすぐれたミステリです。
ポワロが最後とても優しいのが印象的です。
「青列車の秘密」の時代背景
1928年イギリスでの女性21歳以上の選挙権が認められました。
フレミングがペニシリンを発見しこの後人類は抗生物質の恩恵を受けられるようになっていきます。翌年世界大恐慌が起きますがイギリスは第一次大戦以来ずっと不況です。
アメリカはバブルです。
あなたと私の探偵物語
「こんどの事件は、いわばあなたとわたしの共作による探偵小説みたいなものですね。わたしたちだけで、ひとつ解決してみようではありませんか」
これはポワロがキャザリンに殺人事件発覚後言うセリフです。お気楽なもんです。名探偵ポワロ。これはエルキュール・ポワロのみに許されたセリフですね。
主人公であるキャザリンは名家の子女にもかかわらず父の破産のため奉公人として気難しい夫人のもと10年間働きます。
場所はセント・メアリ・ミードです。
しかし気難しく休みもなくおそらく薄給であろうブラック企業のような夫人は財産をキャザリンに残します。
誠意は金で示したのですね。
にわかに小金持ちになったキャザリンは従妹の住むニースに向かうブルートレインで事件に遭遇するのです。ポワロにも遭遇します。
彼女はどこか霊的に達人の域に達した女性です。
33歳ですが雰囲気はミス・マープルか、ルーシー・アイレスバロウを思わせるようなところもあります。
かつて英文学者の渡辺昇一氏が著書で書いておられた「知的正直さ」を持った女性です。スタイルもいいです。
自分の道の真ん中を歩く女性です。ポワロが対等に話しかけるくらいです。
ポワロはふたりで解決とか言っておきながら基本的にひとりで解決します。
ただハナシはキャザリンの上から目線で書かれているようにも見えます。
ポワロが小男のせいだからでしょうか。
そしてポワロをインスパイアする探偵がもうひとり。
あんまり母親に可愛く思われていないレノックスという女性です。
彼女は品がないように描写されますがキラメキをみせます。
「青列車の秘密」はレノックスとポワロの探偵物語でもあるのです。
「青列車の秘密」のスピリチュアル
さらに「青列車の秘密」にはスピリチュアルな要素もあります。
キャザリンがらみが多いのですが決定打は被害者の気配です。
キャザリンは突然被害者がそばにいるのを感じなにかを訴えかけようとしているのを感じ取ります。
これを唐突だと違和感を感じるか感じないかはそれぞれでしょう。
私は違和感は感じませんでした。むしろ彼女のキャラなら自然だと思いました。
青列車の秘密」のまとめ
鉄道チッキってひさしぶりに読みましたね。また先に死んだら残ったものが勝った気分でいるというのはこれも万国共通ですね。セント・メアリ・ミードだけじゃなく。
ムカシ「死んだやつは話せないから歴史は生きてるものがつくるのだ。だからわしの勝ちだ」と豪語した身内が私にもおりました。ひどい話です。何も信じられません。
ポワロは最後にレノックスとリビエラの浜辺で語らいます。
美しい余韻を残すシーンです。
レノックスは「あたしお役に立ったのね」とポワロにいいます。
ポワロはレノックスの隠された繊細な気持ちをよく理解しているのです。
レノックスは見た目もあんまりかわいくないのです。
「あんまり」というところがあんまりです。
そして失恋したのです。だからせめてポワロに貢献したと信じたいのです。
ポワロは彼女をなぐさめます。
あなたはまだ若いのです。
人生という列車を信じなさいとやさしく励まし物語はおわります。
総じてポワロは登場する若い女性のこころを救い「青列車の秘密」は終わります。
美しい素晴らしいミステリです。