黄色いアイリス THE REGATTA MYSTERY AND OTHER STORIES アガサ・クリスティ 中村妙子 訳

1939年出版。9編。ポワロ、ミス・マープル、パーカー・パイン。そして主役をポワロに奪われまったく登場しませんが、レイス大佐が登場する長編版「忘られぬ死」(1944年)の元ネタで表題になっている「黄色いアイリス」が収録された宝石箱のような短編集です。ミステリのハードルは負担になりません。

レガッタ・デーの事件

原書のタイトルになっている事件です。ダートマス港が舞台です。

胡散臭い好人物のパーカー・パインが颯爽と登場します。

そして、レガッタ・デーとはなんぞや?と思いきや、やはり船のレースの日であるだけです。

いえ、炭素の塊であるところの「明けの明星」というダイヤがなくなる日です。

詐欺師のようにパーカー・パインがズバット登場、ズバット解決します。

ちなみにプラステシンとは粘土です。

バクダット大櫃の謎

名探偵ポワロ氏が登場です。語りはヘイスティングズ君です。

大櫃(おおひつ)とはチェストです。櫃はこめびつの「ひつ」と読みます。読めませんな。

似たような短編に「スペイン櫃の秘密」(「クリスマス・プディングの冒険」(1939年))があります。

まあ、似てますか。

その箱の中で死体が発見されます。ややこしい姿勢です。

ポワロは意味不明というかハッタリ気味の名セリフをこの作品で言います。

女性が真実を告げねばならぬ相手はこの世に三人いる。懺悔聴聞師に美容師に私立探偵だと。

非常に微妙なところを衝いてますね。

あなたの庭はどんな庭?

ポワロの作品です。

ミス・レモン48歳が登場します。シビアな英国の商いでのカケヒキをベルギー人に伝授します。しかし、シビア過ぎです。これはミス・レモンがシビアなだけかもしれません。

ポワロは依頼人とおぼしき人物が死んでいるのにトボケて訪問します。ここは名探偵のカンというやつですか。

毒はストリキニーネ。

ガーデニングの虚を見破り、薄幸の少女の冤罪を晴らして問題解決します。

ちなみに被害者の老婦人はヴィクトリア朝の啓蒙を受けた方でしょう。人遣いは荒いが情が深い、というヤツです。ワタシが仕えるにはキビシイ状況です。

ポリェンサ海岸の事件

旅行中のパーカー・パイン氏が登場します。

嫁姑問題で将来こじれそうな案件を未発にします。

と二行で書けば終わりですが、非常に爽快なストーリーです。

安心の短編です。

愛しのマドレーヌです。

黄色いアイリス

日本語版の表題作です。

ポワロは冒頭、例によってシンメトリーへのこだわりを見せます。ラジエーターが好きで暖炉はキライ。

毒は青酸です。

ポワロ氏はここで過去は去るにまかせて現在に生きよと名セリフを言います。

てか、クリスティが様々な作品中で口が酸っぱくなるほど告げているアドヴァイスでもあります。

名セリフのポワロ氏にはシンメトリーの執着を捨てアシンメトリーも受け入れよとアドヴァイスをしたいですが名探偵には大きなお世話です。ワタシゴトキに言う資格はもちろんありません。

また、本編は長編「忘られぬ死」(1944年)の元ネタです。

タイトルは発泡するシアン化合物です。

長編の方ではレイス大佐が登場します。彼が登場する最後の事件になります。

長編の方は非常に神秘的で哀しげな作品です。情感と霊感に溢れた奥行のあるミステリです。

ハロウィーンの時期の事件です。

一読をおススメします。

ミス・マープルの思い出話

ミス・マープルが登場です。

甥のレイモンドとジョーンに語ります。

ミス・マープルは年寄りの長話と言いますが、短いです。

短すぎてうかつに書けません。

しかしなぜ狩猟好きな人は小説の中で「g」の発音を落とすのでしょうか。

仄暗い鏡の中に

幻想小説風です。

ハッピーエンドです。

この短編集での丁度いいタイミングの佳品です。

船上の怪事件

ポワロ氏の事件です。

ここではハイボールです。ウイスキーアンドソーダではありません。今では一周してまたハイボールです。

この事件は起こるべきして起きた事件と言えなくもありません。

二度目のゴング

ポワロ氏のハナシです。

限嗣不動産権というのが出てきます。この頃はまだ限嗣相続(げんしそうぞく)みたいな法律があったのでしょう。

限嗣相続とは直系男子のみの相続というヤツで、女子は相続できません。

ので、ジェーン・オースチンの「高慢と偏見」のような、いかにイイトコに嫁ぐかのドタバタが生じるのです。

このハナシは古い古い家系の誇大妄想気味の人物が被害者です。

訳者様は中編の「死人の鏡」に似ていると言われています。

ワタシ的には「クレタ島の雄牛」(「ヘラクレスの冒険」(1947年))を思い出しました。

ウサギ狩りだし、精神錯乱の旧家の主のハナシだし。

読後感がよろしいですし。

黄色いアイリスのまとめ

この短編集「黄色いアイリス」が出版された1939年はあの有名作品「そして誰もいなくなった」や「殺人は容易だ」が出版された年でもあります。

クリスティがもっとも充実していた時代の出版ということになります。なんせ翌年はあの「杉の柩」が出版ですし。

クリスティは49歳です。小説家としては最盛期です。クリスティはデビューしてからずっと最盛期と言って良い作家ですが、それでも気力が充実していた頃でしょう。

この短編集「黄色いアイリス」はアラカルトチョコレートのような作品集です。

少なくとも「ミステリ読むほどアタマを垂れる阿保かいな」と自嘲するハメにはなりません。コレ、ワタシだけかしら。

ていうか、むしろアタマが冴えます。たぶん。

イロイロ楽しめて読後感もさわやかです。

疲れているときや気分転換の際におススメできる清冽な渓流のような作品集です。

おススメします。

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