ブラック・コーヒー BLACK COFFEE アガサ・クリスティ 麻田 実 訳 

1930年。アガサ・クリスティの初めての戯曲になります。ポワロ物でオリジナルになります。本戯曲では南米からヘイスティングズが一時帰国中の設定になっていて、ポワロとアボット・クレーヴにあるクロード・エイモリー邸に同行します。ジャップ警部も登場するので三匹のおっさんが揃います。またクリスティ研究家のチャールズ・オズボーンが1997年に書いた小説版も出版されています。

「ブラック・コーヒー」のあらすじ

ロンドンから25マイルほどの離れた貴族でもあり科学者のクロード・エイモリー卿の邸宅。その夜、9時過ぎ頃、ロンドンから二人の人物が来訪する予定でした。

その二人とは邸宅での異変に気付いたエイモリー卿が呼びよせたエルキュール・ポワロとヘイスティングズ大尉です。

エイモリー卿は晩餐後のコーヒータイム、読書室に家族全員を集め、この中の誰かが、研究中の原子力から発見した画期的な爆発法「アモライト」の方程式を金庫から盗んだと言います。

更にこの読書室の出入りは卿の特許製ロックによりすでに制限されていると付け加えます。

そしてポワロ達が到着する前の9時にこの部屋をいったん暗闇にすることを宣言、その際方程式の書かれた封筒が戻されていればこの件は不問にするが、そうでない場合、名探偵エルキュール・ポワロの出番になるだろうと告げたのです。

その後、部屋は暗闇に包まれます。しかし再び明かりが灯されたときエイモリー卿はこと切れていました。

卿のコーヒーに毒が入っていたのです。

邸宅がパニック状態の中、ポワロとヘイスティングズ大尉が到着、事件の解明にあたります。

当たり前ですが、邸宅にいる家族は全員容疑者です。

借金で首が回らない息子。その息子とイタリアで知り合ってすぐ結婚した素性のはっきりしない孤児の嫁。なぜかその嫁の古い知り合いだとかの理由で突然訪れた更に素性の知れないイタリア人の医者を名乗る男。

エイモリー卿の妹で小うるさいヴィクトリア朝の化石のようなおばさん。そのおばさんからしたら色狂いのように思えるエイモリー卿の姪。

ダンナのインドへの転勤に付いていった薬剤師だった別の姪が残していった劇薬の数々。

誰が殺しても殺されても不思議はありません。

「ブラック・コーヒー」の時代背景

この戯曲は1930年の発表です。昭和5年です。ミス・マープルの「牧師館の殺人」「謎のクィン氏」が発表されています。

時代背景はリンク先をご参照ください。ま、昭和の暗黒期、世界恐慌の時代。

コロナ禍の2020年の現在と似ていなくもありません。ITテクノロジーがなければ現在同じような状況でしょう。

いや、今、同じような状況なのかもしれません。全世界で猖獗を極める未知のウイルスには21世紀のテクノロジーも追いつきません。

ポワロ、ヘイスティングズ、ジャップ

最初期の戯曲ですので三人そろい踏みです。

この「ブラック・コーヒー」(1930年)は三幕ものですが、第一幕目「午後八時三十分」からポワロとヘイスティングズが登場し第二幕目「翌朝」最後半にジャップが名前だけ登場、第三幕目「その十五分後」でジャップ本体登場という按配になっています。

そしていつもどおりのヘイスティングズの女に弱いダメっぷり、ジャップの失職してもおかしくないようなザルな推理と見どころ満載です。

ヘイスティングズは既婚者なはずですが、どうにもなりませんな。

その上、ジャップは登場するなりポワロに対して、相変わらずヌーボーとしているだの、隠したがり屋のおいぼれ乞食と揶揄するなどの傍若無人さを発揮します。

ポワロはイタリア語で会話する当然のアタマの強さを発揮します。また、柔道(ノベライズではジュージュツ)の足払いをかけるようです。どこで覚えたのかしら。

安心して読み進めます。

「ブラック・コーヒー」のまとめ

戯曲ではジャップはポワロと会うなりウエールズの事件以来だと発言します。オズボーンのノベライズではスタイルズ荘の事件に触れ、二年前のイタリア貴族をめぐる事件以来だと言います。

このイタリア貴族の案件は短編集「ポアロ登場」1923年)「イタリア貴族殺害事件」のことです。

また、オズボーン氏にはこだわりがあるようでノベライズ「ブラック・コーヒー」「エッジウェア卿の死」(1933年)のあとの事件とされています。

あとこの表題になっている「ブラック・コーヒー」、飲む人と飲まない人がいます。

言うまでもなく我らが名探偵氏は飲むならスグリのシロップかチョコレートです。

ブラック・コーヒーのようなオトナの飲み物は口を付けるわけがないのです。

またヴィクトリア朝のキャロラインおばさんが盛んに口にするビーズワックス、ビーマックスとは一般的には蜜蝋のことを指すようですね。水に浮くキャンドルなんかに使われるヤツです。

ビタミン剤だったとのことですが、リップクリームみたいな感じなんでしょうか。キャロラインおばさんが言うように確かに天然のヴィタミンが豊富で食用にもなるみたいなのでヴィクトリア朝の方々なら食していても不思議ではありません。

でも現代ではワックスです。

ムカシは爆発物も(ニトロだったか、成分は忘れました)現場で食べてたようですから、たぶん食べてたんでしょう。

想像がつきません。

でも、ちょっと食べてみたいかもです。

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