終わりなき夜に生まれつく ENDLESS NIGHT アガサ・クリスティ 乾信一郎 訳


冒頭「我が終わりのときに始めあり」スコットランド女王メアリ・スチュアートの有名なことば(ことわざ)で始まります。「終わりなき夜に生まれつく」はアガサ・クリスティ自選10のうちのひとつ。アガサ・クリスティが愛した1967年の作品です。ポワロとミス・マープルは出てきません。

「終わりなき夜に生まれつく」のあらすじ

呪いの土地ジプシーが丘。そこで無職の若者と大金持ちの娘が出会い恋に落ちます。周囲の反対を押し切り階級差を乗り越えふたりは結ばれます。

しかし事故が…。これは呪われた土地のたたりなのでしょうか。

「終わりなき夜に生まれつく」の時代背景

1967年。ストライキです。経済は英国病進行中。いろいろウワサがたてられたビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」が発売された年です。

フラワーチルドレン、ヒッピームーブメントが盛んでした。

オトナからしたらフラフラした若者ばかりに見えたでしょう。「終わりなき夜に生まれつく」の主人公マイケルもフリーターみたいです。

エリーマイラブ…

エリー。本名はフェニラ・グッドマン。アメリカの大富豪の娘です。なにごとにも偏見がなく好きなものであれば見かけや値段にはこだわらない純真な女性です。

天使のような女性でした。享年21歳。落馬による事故死。

マイケル・ロジャース。職業フリーター、現在無職。定職につかず夢見がちな若者。ふらふらしてジプシー(ロマ)のおばあさんの言うことをきかず呪いの土地に迷い込む。

うーむ。これ誰のことですか。まずいア・ボーイ・ミーツ・ア・ガールですね。

イギリスの悲劇

アガサ・クリスティは本当にすごい。この一言ですね。「終わりなき夜に生まれつく」が出版されたときアガサ・クリスティは後期高齢者ですから。

ボキャブラリーもモノの見かたもマイケルにあわせて書いているのでしょう。読み始めてすぐトランス状態になります。ふわふわしたマイケルに憑依された状態になります。

まったくホラーです。リアルホラーです。

そんなマイケルにエリーがふいに投げかけることば。

タイトルの「終わりなき夜に生まれつく」はウイリアム・ブレイクの詩です。エリーはギターを弾きながらその詩を歌います。そしてこう言います。

エリーは目をあげてぼくを見た。

「ねえマイク、あなたはどうしてそんな目つきで、あたしを見てるの?」

「そんなとは、どういうこと?」

「あたしを愛しているかのように目つきで、あたしを見てる・・・・・・」

「終わりなき夜に生まれつく アガサ・クリスティ」 乾信一郎 訳

ウイリアム・ブレイクはイエイツやランボーとおなじ「見者」といわれた詩人です。未来を見るかのような詩を書いたサイキックです。

その歌をうたうエリーはまれにみる純粋で美しい女性です。

切なくて涙が出ます。哀しいですね。こころを見透かせてしまうのでしょう。

エリーがジプシーが丘の呪いをうける理由はありません。ありえないです。運命を受け入れすぎです。うちの嫁にこないかです。

ちなみに「我が終わりのときに始めあり」のことばはよくネットで使われる「終わりの始まり」とはちがうニュアンスです。

スコットランド女王メアリは断首されますが現在のウインザー朝はエリザベス1世の子供ではなくメアリの子孫です。そのため「我が終わりのときに始めあり」予言的なことばとしても有名です。

ですが「終わりなき夜に生まれつく」には「終わりの始まり」のほうがふさわしいかもしれません。詰んでいたわけではなかったのに…。

幻想のおわり

ミス・マープルがインフルエンザになった短編エピソードで「終わりなき夜に生まれつく」の原型がでてきます。そのときこのハナシが話題になるとおもいます。

残念なのがマイケルにとって守護天使のような母親とルドルフ・サントニックの存在です。本当に守護霊のようです。ふたりはマイケルを守ろうと一生懸命でした。

私もそんな守護天使みたいなひとびとの声をを無視して生きてきたひとりかも。そうでないかも。どうやらダメなひとりだったようです。身につまされますね。

「終わりなき夜に生まれつく」は神話です。しかも誰の人生でも起こりうる神話です。セイレーンに導かれて航路を誤った船乗りのおはなしのようです。

「終わりなき夜に生まれつく」は推理小説ではないですが「春にして君を離れ」とおなじような特別な小説に感じます。どちらもすぐ強いトランス状態に入れます。

「終わりなき夜に生まれつく」のまとめ

アガサ・クリスティは遠いむこうの世界のハナシを私たちに残してくれました。「終わりなき夜に生まれつく」は若いうちに読むとムダな失敗しないですむかもしれませんね。

イロイロと。失敗はひとそれぞれですが。アガサ・クリスティ特有のひとの成長をうながす小説です。きっと読んでよかったと思えるでしょう。

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