こころの悩み専門医「パーカーパイン登場」!精巧に組まれたパズルのような構成です。ショートストーリーなので気軽に読めて気分爽快。読後幸福とはなにかと考えさせる奥行きもあります。散りばめらた宝石のような短編集。アガサ・クリスティ1934年の作品です。12編。
「パーカーパイン登場」のあらすじ
毎朝の新聞に載せられている広告「あなたは幸せ?でないならパーカーパインに連絡を」。
その広告に引き寄せられるように悩みをかかえたひとびとはパーカーパインの事務所を訪れます。
そんなひとびとの悩みをパーカーパインは魔術のような方法で解決していきます。
前半部分はロンドンの事務所でのお客様案件です。最高のホスピタリティで応対して事前調査もおこないます。
荒唐無稽なようでリアリティがあります。往年の「スパイ大作戦」(ミッション・イン・ポッシブルの元ネタ)のようなコンゲームです。
後半部分は休暇旅行中のパーカーパインが事件にまきこまれ解決していきます。バクダット、ナイルとエキゾチックでミステリアスな事件が続きます。
「パーカーパイン登場」の時代背景
1930年代前半。イギリスは世界恐慌からつづく不況です。金本位制の放棄、失業手当の減額など相当キツイ状況です。
植民地経営がたちゆかずウエストミンスター憲章にもとづいた植民地群とのブロック経済でなんとかしようと頑張ります。でもやっぱり不況です。
当時は植民地頼りだったんですね。
ドイツではヒトラー・ナチスが台頭。多くのアーチストを生んだバウハウスが閉鎖されます。世界に暗雲が広がりつつある世界です。
ソ連でもひどい粛清がおこなわれていました。日本では満州事変、5・15事件、国際連盟脱退とヤバげな方向に向かいます。アメリカは大不況の底でした。
パーカーパインはロンドンで金持ち相手に仕事をこなしイギリス植民地を休暇旅行していました。
ギニーとポンド
「パーカーパイン登場」を読んでイチバン迷うのが通貨価値です。
「中年夫人の危機」
- パキントン夫人
- 料金200ギニー
- 接待費102ポンド14シリング6ペンス
- 利益92ポンド2シリング4ペンス
「不満軍人の事件」
- ウィルブラム少佐
- 料金50ポンド
- フリーダ・クレグ
- 料金3ギニー
「困った婦人の事件」
- 取り戻すダイヤ2000ポンド
- 経費65ポンド17シリング
「不満な夫の事件」
- ウェード氏
- 料金200ギニー
「サラリーマンの事件」
- ロバーツ氏
- 料金5ポンド
- 報酬50ポンド
「富豪夫人の事件」
- ライマー夫人
- 料金1000ポンド
- 財産受け取り700ポンド
上記はロンドンの事務所でパーカーパインが受けた案件です。
換算すると…
当時の貨幣単位はどのようなものでしょうか。
1ギニー=1ポンド1シリング
1ポンド=20シリング(1971年以降は1ポンド100シリング)
1シリング=12ペンス
1ギニーはチップのように1シリング分だけ1ポンドより多いですね。ご祝儀のようなイギリスの商習慣なんでしょう。
当時の貨幣価値は…
調べてみましたが不況が世界的にすごすぎて数年で変動があります。とくに1930年代前半は。
で、おおむね当時の1円が現在の2000円から2500円くらいとして。当時の1ポンドが10円から12円くらいだとして1ポンドは現在の20000円から30000円だとします。これを不況だから安くみて…。
1ギニー21,000円 1ポンド20,000円 1シリング1,000円 1ペンス84円くらい
すると200ギニーは安くて4,200,000円くらい…。げ!
イギリスは不況だったのか!それとも二極化か!
パキントン夫人はそんなにもってるのですか。マジですか。いま風の女子キャラのフリーダ・クレグが3ギニー払って63,000円がもったいないといってます。
脱毛エステ数回分の料金です。女子がいうのですから妥当でしょう。ライマー夫人がパーカーパインに支払う料金が1000ポンドで円にすると20,000,000円。
財産受け取りが14,000,000円で農場を購入する予定なのでやはり妥当でしょうか。大富豪ですからね。
うーん。でも修正の余地がありそうですね。子供の頃は1円1マンだといわれたものですが。それじゃ高すぎです。
ただパーカーパインは金に糸目をつけず案件処理してますからね。事務所の労務費も常駐でミス・レモン、オリヴァ夫人、クロード、マドリーンと4人いますから。
家賃もけっこうお高そうです。そうなると固定費がかかりますね。広告費もかかるでしょうし。
ミス・レモンはポワロの事務員もしてます。アガサ・クリスティはスターシステムを採用しているのか、それともミス・レモンはこちらがバイトですか。ポワロのトコは給料安いですか。
オリヴァ夫人はこちらでもリンゴかじりながら仕事です。ワーカホリックなのか不況で出版がおもわしくないのか売れっ子になる前だったのか。総じて謎の多い「パーカーパイン登場」です。
「パーカーパイン登場」のまとめ
パーカーパイン氏は大男で近眼ではげです。35年間でつちかった統計収集の技術で新ビジネスを立ち上げたキャラです。
しかも、「不幸は五つに分類される。それ以外にない。絶対に。」と言い切ります。もううさんくささプンプンです。
ですがお客さまは不景気にもかかわらずお財布から小切手を取り出します。パーカーパインの営業トークおそるべし。
でも、結果を出します。サギっぽいけどサギじゃない。「パーカーパイン登場」はアガサ・クリスティの遊び心いっぱいの作品です。