ミス・マープルものでも「バートラムホテルにて」とならび名前がでたり聖地めぐりをされる「パディントン発4時50分」。まだギリギリよき英国の時代です。クリスマスにはクリスティを。「パディントン発4時50分」1957年発表アガサ・クリスティ65歳のときの名作です。
「パディントン発4時50分」のあらすじ
クリスマス近くのロンドンからパディントン発4時50分発の列車に乗ったマクギリカディ夫人はセント・メアリ・ミードのミス・マープル宅めざします。
その途中マクギリカディ夫人は同じ下り線を並行する列車内での殺人を目撃します。
しかし翌朝の新聞には事件は記事になっていませんでした。友人と自分のカンを信じてミス・マープルがとった行動は…。
行動力がすご過ぎます、ミス・ジェーン・マープル。
「パディントン発4時50分」の時代背景
英仏はスエズ運河の利権をめぐってイスラエルを抱き込みエジプト、アラブと戦争状態になります。第二次中東戦争ともいいます。
しかし国際的な同意を得られませんでした。孤立した英仏イスラエルは撤退。負けたエジプト大統領ナセルはアラブの英雄になります。
ちなみにナセルは70年代初頭まで「ナセルが言った」ですべての話がすむほどの英雄だったそうです。最近テレビでは観なくなりましたが吉村作治先生が著書で書いておられてました。
かつての大英帝国の面影はありません。しかしイギリス国民はいたって平和です。セント・メアリ・ミードでもクリスマスは普通にお祝いされてたようですね。
事件の目撃者のマクギリカディ夫人はロンドンでクリスマスプレゼントの洗顔用タオル、兎(ぬいぐるみ?)、イブニングコート、宇宙銃、そしてプルオーバーを購入します。
ちなみに日本では神武景気(神武天皇以来の景気のよさ)です。
ルーシー・アイレスバロウ、そのハケンの品格!
ルーシーなくしてこのオハナシは成り立ちません。スゴイ女子キャラ登場です。
本名ルーシー・アイレスバロウ。
32歳。女性。独身。オクスフォード大で数学専攻首席卒業。
職業 ハケンの家政婦。一ヶ所のお宅では長くても1ヶ月。ふつうは2週間しか働きません。「パディントン発4時50分」では特別3週間です。お客は選びます。お時給高いです。
並みのハケンじゃありません。以前テレビで放映していた「ハケンの品格」の大前春子級です。「家政婦のミタ」でもあります。
予約が難しい家政婦さんです。
彼女は年金生活のミス・マープルからの特命を帯びて倹約中のクラッケンソープ家にもぐりこみます。お時給不足分はミス・マープルが年金から上乗せします。
作家新田次郎の子息で数学者藤原正彦先生が「数学者の言葉では」で数学者は変人が多いと書かれていました。
それを読んでいなかったらにわかに信じられないキャラです。数学者らしくチョー合理的です。頭脳明晰はいうまでもありません。
肉体労働も料理も介護もお手のものです。どんなオツボネでもトメでもウトでもラクラク攻略します。とうぜん、モテます。
「パディントン発4時50分」のAGAストーブと出てくるお料理
「パディントン発4時50分」でルーシーが作るおもな料理です。私が作るのは…。
ローストビーフ ヨークシャープディング
スパニッシュオムレツ
ピーチフラン
鳥レバーベーコン巻き(カナッペ・ディアナ)
チキンカレー。スパニッシュオムレツ
以上のうち
ローストビーフはまあふつうに作ります。ただここで出てくる肉はサーロインです。モモ肉でつくります。そとではハモンセラーノ食べます。ぜいたくですね。やめます。
ヨークシャープディングは作りません。ポップオーバーとしていまではお店で食べられますよね。(二つともカンタンですが)
スパニッシュオムレツはふつうに食べます。というかイモにかぎらずなんでもまぜて貧乏学生は食べます。ピーチフランは作りません。でもモモカンあれば作れます。
鳥レバーベーコン巻きは知りませんでした。今度作ってみます。チキンカレーはインドが植民地ですからね。
そしてあこがれのAGAストーブです。欲しいですねー。「大草原の小さな家」でも似たようなのが出てました。でも使いこなせないかな。私はひと口コンロでじゅうぶんですね。
こうしてみるとけっこうシンプルな料理が並びます。当主のルーザー・クラッケンソープは倹約家です。
イモが多すぎて余ったとクラッケンソープ氏はルーシーに文句をいいます。それをルーシーはスパニッシュオムレツに入れますからとさらりとかわします。
アガサ・クリスティは全部作れたんでしょうね。ミス・マープルも作ったでしょう。
壮絶!ムカシオトナ女子、ジェーンとエルスペス!!
ジェーン・マープルとエルスペス・マクギリカディは古い友人です。アガサ・クリスティは女子のあいだの金銭感覚もキッチリ書きます。女子のたしなみなんでしょうね。
・・・もちろん汽車賃は私がもつわ」ミス・マープルはこの点をとくに強調した。マクギリカディ婦人は、汽車賃の問題を無視した。
引用「パディントン発4時50分」アガサ・クリスティ 大門一男 訳 ハヤカワ文庫
ハラハラしますね。ふつうの女子にはあたり前なんでしょうけど。そしてすぐあとに・・・。
「大切なお金の無駄遣いだったわね」とマクギリカディ夫人は言ったものの、費用は自分で出したわけではないので、非難めいた響きはあまり籠もっていなかった。この点、ミス・マープルはまことにお堅かった。
引用「パディントン発4時50分」アガサ・クリスティ 大門一男 訳 ハヤカワ文庫
過呼吸になりますね。「す、すいません。私がやりました」
やってもいない犯罪を自白しそうになります。
また、ミス・マープルの金銭感覚は調査かたがたロンドンへ出向きついでに(ここもしっかりしてますが)買い物をします。
・・・家事の必需品としてリネンの枕カバーを四枚買った(チェッと舌打ちの一つも出そうな値段だ!)
引用「パディントン発4時50分」アガサ・クリスティ 大門一男 訳 ハヤカワ文庫
というスルドさです。「パディントン発4時50分」にかぎらずミス・マープルものは推理小説でもあり老後楽しく生きるシンプルライフ小説なところもミドコロです。
クロスオーバーイレブン
「パディントン発4時50分」では第二次大戦を戦後ととらえるか第一次大戦を戦後とらえるか。どちらの世代も現役だった頃のハナシです。
納屋でのヒルマン老人とルーシーのやりとりがトンチンカンでイケてます。モチロンルーシーは臆面にもだしません。世代の格差があったんですね。いまもむかしも変わりません。
お正月とお盆にNHK-FMでクロスオーバーイレブンという番組を放送します。ナレーションをはさんで曲を流す番組です。そのクロスオーバーイレブンは以前ナレーション集を出しました。
その「真夜中の漂流者」のなかに「パディントン発4時50分」というタイトルのナレーション・エッセイがあります。
作者の西尾忠久氏はあるときドーチェスター・オン・テームズという村を訪れます。
そしてどこかでみた記憶におそわれます。そこはアガサ・クリスティが住んでいたウォーリングフォードの近くの村でした。
ドーチェスター・オン・テームズはセント・メアリ・ミードのモデルだったのかそれでどこかでみた記憶があったのかと西尾忠久氏は気づきます。
アガサ・クリスティのセント・メアリ・ミードの掘り下げ方にはオドロキです。
あなたの女子力は?!ネタバレ!!
「パディントン発4時50分」で試される本当の推理力は最後の一行だそうです。キリコさん(仮名)によると男子力でもいいそうですよ。モチロン私にはいまだにわかりません。
「パディントン発4時50分」のまとめ
アガサ・クリスティの小説には魅力的なキャラクターが多数登場します。そのなかでもルーシー・アイレスバロウはオールマイティなキャラです。
もっと彼女のかかわったオハナシを読みたいような気がします。「パディントン発4時50分」は生活感ある楽しめる小説です。
2018年3月追記
また、ミス・マープルモノを読むとき、私は先年他界された現代キャリアウーマンのフロンティア、大原照子先生のロンドン留学中の手記を読みたくなります。
大原照子先生は晩年まで老後の生き方について莫大な智慧を残してくれました。大原先生はロンドンでの生活で出会った方々を参考に老後を生きておられたようです。
やはり達人の生き方は参考になります。ありがたいことですね。