バートラム・ホテルにて AT BERTRAM’S HOTEL アガサ・クリスティ 乾 信一郎 訳


ロンドンムカシオトナ女子ライフミステリです。ビートルズ旋風の1965年出版。老後のしあわせ指南書です。エドワード朝のたたずまいを残すバートラム・ホテルを足がかりにロンドンを駆け巡り買い物するミス・マープルの青春ミステリ。オトナ女子も食べ物もいっぱいでてきます。

「バートラム・ホテルにて」のあらすじ

ミス・マープルは娘時代の思い出のバートラム・ホテルに甥夫婦の好意で滞在する機会を得ました。

どこか古き良きイギリスの面影をのこすバートラム・ホテルを根城にロンドンオトナ女子のショッピングを満喫するミス・マープル。

しかしミス・マープルが買い物三昧でハイテンションの影でバートラム・ホテルでは意外な事件が進行していました。

ミス・マープルがオトナ女子以外のなにものでもないミステリです。

1909年の14歳の少女が1960年代のロンドンを闊歩しているかのようなミステリです。

当然さいふのひもは堅いです。

非常にリッチなミステリです。ミス・マープルはトシをとればとるほど若返るというすごい女子です。

「バートラム・ホテルにて」の時代背景

ビートルズにローリングストーンズの時代です。

というかロックの時代です。経済はあいかわらずの英国病です。

ビートルズは外貨獲得の貢献でエリザベス女王から勲章をもらっています。

フラワーチルドレンにカウンターカルチャー、ポップアートと忙しい時代です。

これ以降アメリカとイギリスの文化は世界を席巻していくことになります。

イギリスの作家ジョン・ル・カレのスパイ小説が人気でした。

文化以外はアメリカではベトナム戦争がドロ沼化です。我が国は高度成長期です。

でもミス・マープルはバーゲン狙いでロンドンを駆け巡ります。

ミス・マープルのロンドン滞在記ついでに謎解き

ミス・マープルの活動

ある日のバートラム・ホテルの朝食

紅茶にミルク。銀製のつぼにいれられた熱い湯。トーストの上のポーチドエッグ?ひとかたまりのバターにはちみつにイチゴジャムにマーマレード。果物はリンゴとバナナとナシです。

この品揃えで一流ですね。はちみつ、マーマレード、イチゴジャム、バター。

このあとミス・マープルは帽子、手袋、こうもりかさ、ハンドバッグにショッピングバッグと完全武装でロンドンを徘徊、じゃなくて駆け巡ります。ショッピングに。

リンネルのシーツを買いホンモノのガラス磨きの布を買います。その後陸海軍ストアにバスで向かいます。

そこで1909年ヘレン叔母についてきてタイクツになるもご飯を食べストロベリーアイスを食べた思い出をなつかしくおもうミス・マープルです。

私はムカシノーキョーで駄々をこねて二階のレストランでチョコレートパフェを食べた記憶を思い出しました。

当時私が住んでいた町ではノーキョーが唯一の二階建てのビルでした。

母親や叔母の買い物は長すぎていやになったのです。

そこでしかシャレた風の衣料品を置いていなかったせいでしょう。

またレンバイといわれた店が並ぶ路地での長話。

ミス・マープルのキモチがよくわかります。

いまでも都会の下町ではあるのでしょう。

そして陸海軍ストアのレストランでミス・マープルは耳をダンボにして聞き耳をたてるのです。

ミス・マープルは公共機関を徹底的につかいます。

マダムタッソーの館に出かけかつての知り合いの家々をみて歩き感慨にふけります。非常に倹約家ですね。

今ならシンプルライフと節約のブログを立ち上げているでしょう。その後茶店でスポンジケーキふたつと紅茶をいただきながら推理です。

この反動がシャコ丸一羽とマロングラッセ一箱とタクシーでオペラにつながっていくのでしょうか。

これは「カリブ海の秘密」(64年)でともに事件を解決に導いた互いに一目置く富豪ラフィール氏のたっての依頼で挑戦する「復讐の女神」(71年)の報酬の使いみちで語っています。

ミス・マープルは年金と甥のお金で普段質素に暮らすヴィクトリア朝倹約女子ですから反動があるのでしょう。そして正直です。

「カリブ海の秘密」(64年)は本作の前年の作品です。「鏡は横にひび割れて」(62年)でさまがわりしたセント・メアリ・ミードで年齢からくる(?)身体不調気味のミス・マープルを気遣った甥で作家のレイモンドと画家の奥さんがカリブへジェーン伯母さんを送るのです。

そのおかげで体調を回復したミス・マープルは今回ハツラツとしてロンドンを闊歩できるのです。節約生活のミス・マープルがロンドンプチ旅行が体験できるのも甥夫婦の好意によるものです。ホントに良い甥夫婦です。

なお「復讐の女神」(71年)依頼時すでにラフィール氏は故人です。

ミス・マープルはこの「事件の内容さえ明かされない超絶難関複合ミステリ」「復讐の女神」(71年)での依頼を全面解決、報奨金二万ポンドを手にいれ最初「なぜこんな田舎のばーさんが?」と不審がっていた面々を絶句させています。

このミステリはラストにラフィール氏の代理人がミス・マープルを見て非常に美しいデジャブを体験するシーンもある傑作です。

この「復讐の女神」(71年)がミス・マープルの実質最後の作品です

私もサブヒロモリのスープランチジャーにミネストローネを入れ炒めたほうれん草とターンオーヴァーの卵のトーストサンドもって公園をウロウロしていると反動がくるのかもしれませんね。

それよりもまず職務質問されそうですが。

ミス・マープルはさらにその後編み物しているところをベテラン刑事に話しかけられ事件の推理に本領を発揮します。

へんなハナシですが最後まで読むと「バートラム・ホテルにて」はどこか池波正太郎の小説を読んだような気がします。

オトナ女子ルールは万国共通か?

クリスティの作品には烈女が多数出演します。

「バートラム・ホテルにて」ではベス・セジウィックです。

戦争中はレジスタンスで活躍、レーサーでパイロットで原子力潜水艦にしのびこむ女性です。

しかしセリナ夫人やミス・マープルにはムスメッコです。

60歳以下はムスメであるのだそうです。

私は55歳の女性がムスメのくせにナマイキだとかなんとか言われていたのを聞いたおぼえがあります。あれは空耳だったかしら。でなければ日本もイギリスも同じようです。

また色情狂ではなく「男好きなのね」です。

おもむきがあります。ポワロは自分好きですが。

ベス・セジウィックはホンモノのマフィンだのホンモノのシードケーキだののなかホンモノのイチゴジャムドーナツをアゴにこぼし「すげぇぜ」というありさまです。すげぇぜ。

最後に私は彼女の着ている服がなぜ地球一個分の価値があるのかわかりませんでした。

田舎の老婦人でもわかるらしいのですが。

まさかスカボローフェアの縫い目のない服じゃないでしょうね。

「バートラム・ホテルにて」のまとめ

ドーバーカレイは美味しそうですね。

五枚オロシにしてローズマリーとバジルでパン粉香草バター焼きに私ならするでしょう。味付けは岩塩です。イギリスのカレイはどんなカレイなんでしょうか。

それとまだビート族、ビートニクがでてきます。まだロンドンには生息していたのですね。ビートルズの時代に。

また「バートラム・ホテルにて」では最後に真犯人が逃れるストーリーになっており謎がひとつ残されたままのつくりになっています。

そして謎のロビンスン氏です。

彼は「マギンティ夫人は死んだ」(51年)でポワロが伝授したオムレツの結末を知る主人公が活躍する学園ミステリ「鳩の中の猫」(59年)、クリスティ八十歳の記念作品で当時の社会情勢に問題を投げかけた先鋭的なパンクスとヴィクトリア朝の光と影の問題作「フランクフルトへの乗客」(70年)、それに引き続きクリスティの生涯最後のミステリで高齢になっても若さを失わないトミーとタペンスが50年以上過去を遡(さかのぼ)り再び国難を未発に防ぐ「運命の裏木戸」(73年)とキャラクター世界観をまたいで登場します。

この「バートラム・ホテルにて」は楽しいロンドンのローカル街歩きと推理の融合した傑作ですね。

そして「バートラム・ホテルにて」でもアガサ・クリスティはミス・マープルの口をとおして言います。

人生の姿は前へ進むことだと。人生は一方通行なんだと。

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