謎のクィン氏 THE MYSTERIOUS QUIN アガサ・クリスティ 石田英士 訳


アガサ・クリスティの幻想性を体現したハーリ・クイン氏登場です。もうひとりの主役サタースウェィト氏との神話的な推理小説「謎のクィン氏」。ハーリクィンは道化役者のことです。道化師は影のようにあらわれ去っていきます。アガサ・クリスティ1930年の幻想推理小説です。11編。

「謎のクィン氏」のあらすじ

彼の”小径”をとおっていずこからあらわれいずこかへ去る謎の人物ハーリ・クィン氏。

過去の事件の陰影を照らしだし未解決の事件をサタースウェイト氏に暗示します。

はじめは傍観者に過ぎなかったサタースウエィト氏もクィン氏の世界にだんだんと…

「謎のクィン氏」の時代背景

1930年です。

世界大恐慌の翌年にあたります。イギリスの失業率は2割近くまでになり失業保険が立ちゆかなくなりつつありました。

ブロック経済でイギリスは対応をはかります。ロンドン海軍軍縮会議が締結します。

インドではマハトマ・ガンジーがイギリスの塩への税金の抗議活動をおこないます。

そのインドへの綿製品輸出で日本とシェアの獲得を争っていました。日本は昭和恐慌です。

主人公サタースウエィト氏をはじめ貴族や富豪がメインで登場します。あまり世界情勢とは関係なくすすみます。

がアガサ・クリスティの作品は一歩転落すると金持ちもエライことになるのが登場人物たちからヒシヒシと感じます。

そして殺人の動機になるのがリアルなところです。上流階級も大変です。

「謎のクィン氏」の謎のサタースウェイト氏

クィン氏は謎です。

どちらかというと不運を呼び込みそうなキャラクターです。エドガー・アラン・ポーの赤死病の仮面の使者のようです。

しかし、かれはヨハネ祭ちかくにあらわれたり、新年最初に敷居をまたぐ黒髪の男であったりする幸運の男なのです。

クィン氏の非日常性にいち早く気づくサタースウェイト氏は大富豪の老人です。このかたはもっと謎です。

彼は舞台を眺めるように状況を観察しているだけです。しかもやけに女子好きです。

なんかメイクにも異常にくわしいらしく「男としては、知ってはためにならぬほど、女の秘密に通じていたサタースウエィト氏はとたんに彼女の化粧の腕前に感服した」と描写されるほどです。

困ったおじいちゃんです。

富豪で身分が保証されていなければすこしヤバかったかもしれません。

よくいえばそういう繊細さを持ち合わせていたからクィン氏のような異世界の住人にも気づいたのかもしれないですね。画の目利きですし。

20世紀初頭にはラブクラフトという怪奇作家がアメリカにいました。

生年がアガサ・クリスティと同じです。この世代の作家は世紀末のスピリチュアルな洗礼を受けているのでしょうか。

テニソンの詩とクロスワード

有名な「軽騎兵進撃の歌」がでてきます。しかし私は知りませんでした。テニスンで知っているのは最近観た007「スカイフォール」でMが査問されるときの

我らはかつての力を失いたり。
在りし日は天と地を動かせり力を。
それが今の我らの姿。
英雄にも並び立つべき我らの心は
時と定めにより、弱められぬ。
されど意思に残されし強さは、
戦わんとする気骨と、
真実を求める気概を失わぬままなり。

これです。それと「イノック・アーデン」を先生にすすめられましたがダメでした。いまなら読めるかしら。

ちなみにこのテニスンの「軽騎兵の進撃」はクリスティの別名義、「メアリ・ウェスト・マコット」の「娘は娘」(1952年)に「軽騎兵隊の突撃」として出てきます。

クロスワードパズルに言及する場面もあります。1920年くらいから流行したようです。そうじて「謎のクィン氏」は無教養な私にはけっこう大変でした。

短編集のせいか、オペラ、ルーレット、絵画、食べ物といろいろでてきて神秘性を強調します。イッキ読みでは混乱しました。

それでもクィン氏とサタースウエィト氏のかかわり方がだんだん深くなり「ものがたり」が変容していくようすは面白いです。それと香りがします。ニオイじゃありません。

「謎のクィン氏」のまとめ

「謎のクィン氏」は非常に興味深い幻想推理小説です。イギリスの文化と教養、習慣を頭から浴びられます。アガサ・クリスティはやはり気品があります。

ウエッジウッドでウダプセラワをいただき庭園をながめながらていねいに一編づつ読むことをおすすめします。全粒粉5パーセントのスコーンにカーランツのジャムでアフタヌーンティー。

さもなければハロウィン過ぎの冬の夜に蜜ろうのキャンドルに火をともしアロマはそうですね、ティートリィーなんかで。

いやウソです。私はほうじ茶すすりながらキッチンで読みました。

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