動く指 THE MOVING FINGER アガサ・クリスティ 高橋豊 訳

1943年の第二次大戦中の作品です。ミス・マープルの舞台である「イナカ」を表している作品です。これは現代の日本でもまったく変わらずとおってしまう普遍的な世界です。また世界全体もそうかもしれません。セント・メアリ・ミードは世界の雛形、箱庭といえるかもしれません。自選10作。

動く指のあらすじ

裕福な傷痍軍人ジェリー・バートンは傷の療養のため小さな村リムストックに家を借り妹と住むことにしました。

しかし都会からの外来者を閉鎖的な農村はこころよく迎えたわけではありませんでした。さっそくふたりを中傷する手紙が届きます。

この件を調べてみると都会とは異なる村の人々の複雑な人間関係がジェリーにも理解できるようになっていきます。

それでもこのでたらめな中傷した手紙が各家庭に無差別に届けられていたのには驚かざるをえませんでした。

そしてこの不審な手紙から物語は村の名士の夫人の自殺へと発展していきます。

「動く指」は三人称ではなく小村リムストックに療養にきたジェリー・バートンをとおして語られていきます。

都会から来た若い兄妹と古い人間関係にしばられた田舎との対比というかたちをとりつつ古い伝統世界の良心がいかにその世界を守護してきたかを垣間見ることができます。

これはまったく現在の組織すべてに当てはまることであり、色褪せていないのではないでしょうか。

ミス・マープルのシリーズを読むといつも感じるのですが、めまいがするほど作品は先鋭的です。このような作品を執筆しつづけたアガサ・クリスティには脱帽するばかりです。

動く指の時代背景

第二次世界大戦中のもっとも激しい戦争時期です。イギリスはドイツに爆撃をおこなうなどしますが、イギリスも被害甚大です。物資も困窮していました。

同時期の「五匹の子豚」(42年)をご覧ください。

いったい誰が正しいのか

これは田舎にかぎらないですけどね。最初は親切に思えるひとが実はトンデモナイひとであった。よくあることです。

ただ閉鎖された社会では正論を述べるひとが疎まれたり疎外されたりとするのもまたよくあることです。彼、彼女にははなんの責任もないのに。

以前、とある田舎の町出身のかたから「東京都には23区しかない」ということで押し切られた中学時代の思い出を聞かせていただきました。

東京には23区しかなく、多摩地域や島嶼部はないものだとクラスメートの大多数から断言され仲間はずれにされたそうです。

さいわいすぐそのかたは自分の非を認め町田市や小平市は東京都ではないとしたため事なきをえたそうですが。

私の経験でいいますと、とある時のパートさん同士の会話を思い出します。

それは大さじは15ccだけど小さじは何ccなのかと尋ねられて尋ねられたかたが5ccだと答えていたのですが、昼に彼女からパート頭のお局さまが10ccだと言い張り多数決で小さじは10ccに決定したと私に告げにきたのです。なんじゃそりゃ。

このような無法がとおる素敵な世界が今現在の日本です。スマホで調べなさいよ。

料理したことないのですか。皆さん、還暦越えているのに。と疑問に思っていたら、適当な目分量でお料理をしていたようです。じゃ私と同じじゃん。

「動く指」ではミーガン・ハンターという女性が家族から疎外され村でもそのイメージで扱われ気の毒です。

そして変人で村人から恐れられているカルスロップ夫人。彼女は牧師の妻です。

相当の変人として描かれます。

最初は主人公のジェリー・バートンもそう思いますが、彼女がこの作品のキーマンです。

彼女が第二の殺人が起きたさい、この件には専門家を呼ばなければならないと決断してこの村での事件を収拾させるべくある人物を招聘します。

あのセント・メアリ・ミードの老婦人を。

動く指のまとめ

今回のミステリでも様々なヴィクトリア朝だのシェラトンだのイロイロな調度品がでてきたり村の歴史や伝統的な主従の関係などをうかがい知ることができます。

しかし、表面的なうわさばなしより本質を見抜く人のほうが恐れられるというのはこの「動く指」というミステリがただの田舎の殺人事件ではないと考えさせられます。

ミス・マープルは変人扱いされるカルスロップ夫人を「彼女はじつに珍しい人です。彼女のいうことは、たいがい当たっていますよ」と評価します。

そして村人から煙たがられるのは「正直な人は、どうしてもそういうことになるでしょうね」と付け加えます。

今も昔も都会も田舎もごく少数の正直なひとがその秩序を担っているのでしょう。もちろんミス・マープルはその最たるものです。

冷徹なくらいの采配で犯人を追いつめていき、そうできる人がそうしないのは正義に反するという信念でこの事件の真実を暴きます。

まさしく正義の執行者というにふさわしい守護天使です。

このパターンはミス・マープルものではけっこう見られるので私は読み進めるつどにミステリとは違う意味でハラハラします。

次回作「予告殺人」(50年)でもミス・マープルはその手法を使用しますが、自分もまた同様に矢面に立つのがミス・マープルでもあります。

すごいBBAです。いえ、オトナ女子です。

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