白昼の悪魔 EVIL UNDER THE SUN アガサ・クリスティ 鳴海四郎 訳

クリスティの地元デヴォン州の島を舞台にしたリゾートミステリ。アガサ・クリスティの壮年期の傑作です。1941年作品。ナイルの事件からまだ間もないポワロが保養に訪れたスマグラーズ島のホテルで起きた殺人事件。妖精譚の多い土地柄の事件が陽光のもと意外な展開を見せます。

「白昼の悪魔」のあらすじ

18世紀の閉鎖的な小島が開発され避暑地になった現在。

そのスマグラーズ島のリゾートホテルを訪れたひとびとは一見優雅に見えました。

しかし世代が異なる泊り客はそれぞれ思いを抱いて互いを観察していたのです。

そのなかに休暇を楽しむために滞在していた名探偵ポワロもいました。

そして事件が起こります。穏やかな避暑地の入り江で元女優が首をしめられた無残な死体で発見されたのです。

疑惑が疑惑を生み疑心暗鬼の小島のホテルでポワロは地道な聞き込みをおこないます。そしてその事件から意外な結末が・・・。

アガサ・クリスティが傑作を連発していた時期の傑作のひとつです。映画にもなりました。「地中海殺人事件」というタイトルで公開。

コーンウォールからデヴォンにまたがる妖精や呪いの伝承が残るオカルトな土地柄と日差しのまぶしい海辺のリゾートのコントラストがみごとに結実したミステリです。

スピリチュアル的にも考えさせられるミステリであるともいえます。

「白昼の悪魔」の時代背景

第二次世界大戦の真っ只なかです。

「杉の柩」「そして誰もいなくなった」「愛国殺人」と同じ時期の作品です。

また「トミーとタペンス」シリーズの「NかMか」(41年)を読むとリアルイギリス状況が感じられます。

イギリスはドイツとの制空権争いに辛くも勝利しましたがいよいよ戦況は予断を許さなくなります。

イランの石油利権を手中にしていたイギリスはイランがナチスドイツに接近したのを黙認できずイランを旧ソ連と攻撃します。

国益のためとはいえ忙しい国です。

油田をはじめ第二次大戦は資源をめぐっての戦争でもあったので成り行きは必然だったのかもしれません。

人類の意識が高まり帝国主義や欧米の専横が許されない過渡期でもありました。

しかし一般のイギリス人には苦難の時代です。

この「白昼の悪魔」の時期はまさに「ロンドン大空襲」の期間です。

ドイツ空軍の爆撃で4万人以上の市民が亡くなりました。女性も国防のため必死で戦いました。

しかし「白昼の悪魔」には戦争の面影はありません。

ひとにはそれぞれ役割があります。

アガサ・クリスティはこの時代一見浮世離れしていると思えるミステリで当時苦難にあったひとびとのこころを慰めたのでしょう。

そしてミステリ「白昼の悪魔」は後世の私たちに素晴らしい恩恵を与えてくれました。

「ペンは剣よりも強し」アガサ・クリスティはそれを証明した作家たちのひとりでもあります。

日本は12月に戦争に突入します。

我が国をはじめ全世界が難にあったといえる時代でした。

しかしイギリスとアメリカは戦後のことを軍艦「プリンス・オブ・ウェールズ」上でもう話し合っているのですからね。

しかもこれ日本が参戦する前ですけど。なんてこった。アングロ・サクソン恐るべし。

呪いの発動・・・ってこわいミステリ

この「白昼の悪魔」はマザーグースの一節です。

アガサ・クリスティの王道ですね。

そしてスピリチュアル的というかオカルト要素が非常に濃いミステリです。

陽光きらめく避暑地の出来事だけではありません。時代の陰影をみごとに映し出しています。

事件の現場はデヴォン州とコーンウォール州に残る妖精ピクシーの棲む洞窟ですからね。ピクシー本来の地元はダートムアらしいですが。

そして呪いです。

絞殺魔と呪いの成就です。呪いは「ひとを呪えば穴ふたつ」の世界ですから必ず自分に返ってきます。しょく罪は神に委ねなければならないのです。

とくに真剣に願って成就した場合は困りますよね。

今回の事件には善悪の彼岸を超えた名探偵エルキュール・ポワロがいましたからリアルワールドに反映しませんでした。よかったです。

誘導した人物は善良そうに見えて非常に悪質なサイコパスです。私たちも注意しなければいけません。

どこか「カーテン」を思わせるような状況操作です。

「白昼の悪魔」とはぴったりのタイトルです。このミステリは悪質なサイコパスのハナシですね。このミステリは二重構造になっています。

事件は迷信で終わるのか。理性が真実を白日の下にさらすのか。

興味深いミステリです。

「白昼の悪魔」のまとめ

ピクシーの名誉のために書きますがピクシーはそんな悪さはしないようです。チェンジリングとかの伝承はあるみたいですがせいぜいイヤなひとの足をつねるぐらいです。

当時は非常に切迫した世界状況です。大のおとなが「呪い」だの「魔法」だのを真剣に信じざる得ない世界だったのでしょう。

またディクスン・カーの「火刑法廷」やマーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」がでてきます。

この時代のすぐれた小説です。アガサ・クリスティの目配りは的確です。

そしてアガサ・クリスティのすぐれたミステリは当然よい恋愛小説でもある場合が多いです。

この「白昼の悪魔」もその例にもれずハッピーエンドです。

困難な時代だからこそ作家の地力が試されます。

素晴らしいミステリですね。

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